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スポーツが育てるレジリエンス:SBPYDプログラムが10〜12歳の自己肯定感・有能感・帰属意識に与える影響

ボールを持つジュニアサッカー選手

試合でミスをして落ち込んでいた子が、仲間やコーチの一言で表情を取り戻し、また前向きにプレーし始める──

スポーツの場で、こんな“心が立ち直る瞬間”を見たことはありませんか?

実は、このような小さな経験こそが、子どものレジリエンス(心の強さ)を育てています。

今回は、Journal of Sport for Development(Godor, 2025)の最新研究と、国内外の信頼性の高い文献を基に、スポーツを活用した“ポジティブ青少年育成(SBPYD)”が子どものレジリエンスをどう高めるかを解説します。

ジュニアアスリートを支える保護者・コーチの方が、日常の指導や声かけに活かせるポイントをまとめました。

目次

レジリエンスの土台は「自己肯定感・自己効力感・帰属意識」

レジリエンスとは、困難があっても立ち直り成長し続ける力であり、思春期の発達における重要資源です(Masten, 2018)。

特に10〜12歳は心理・社会的変化が大きく、ポジティブな自己概念や周囲との関係性が大きく揺れ動く時期です(Graber & Petersen, 1991)。

子どものレジリエンス研究の第一人者(心理学者)であるPrince-Embury (プリンス=エンブリー)と 児童・青年心理の国際的研究者(心理学者)のSaklofske(サクロフスキー)は、レジリエンスの中心に以下の3要素があると示しています。

レジリエンスのの要素
・自己肯定感(Self-esteem)
・自己効力感(Self-efficacy)
・帰属意識(Sense of belonging)

これらは困難からの回復力を支える「保護因子」となり、不足すると不登校や社会的孤立などのリスクが高まる可能性があります(Rak & Patterson, 1996)。

20週間のSBPYDプログラムがもたらした心理的変化

研究では、欧州の大規模サッカークラブと連携した 20週間のSBPYD(Sport-Based Positive Youth Development)プログラム が、都市部の小学生(10.5〜12歳)51名を対象に実施されました。

SBPYDとは?

SBPYD(Sport-Based Positive Youth Development)とは、「スポーツを通して子どもの心の成長を支える教育アプローチ」のこと。

SBPYDとは、スポーツを単なる運動としてではなく、子どもの自信・協調性・心の強さ(レジリエンス)を育てる“教育の場”として活かす考え方 のことです(Fraser-Thomas, Côté, & Deakin, 2005)。

特徴は以下のように、とても“あたたかく、意図された関わり”がある点です。

  • コーチが意識して肯定的な声かけをする
  • 目標づくりや振り返り(リフレクション)を大切にする
  • 仲間とのつながりを育てる
  • スポーツで学んだことを学校や家庭にも“転移”させる
  • ミスしても安心できる環境をつくる

つまり、SBPYDとは、「スポーツを通して「生きる力」を育てるプログラム」と考えると、とてもイメージしやすいです。

プログラムの特徴

● 週1回のスポーツ活動

サッカーを中心に、基礎的な運動・ミニゲーム・協力が必要な活動を実施。

ただ運動するだけではなく、

  • 仲間とのコミュニケーション
  • “どう振る舞うか”の学び
  • 困難に向き合う経験

が自然に得られるよう工夫されています。

週1回の学習サポート(言語・数学)

少人数で行う「勉強のフォローアップ」。

難しい問題を解けた時の“できた!”という感覚が 自己肯定感や自己効力感の土台 になります。

学習が苦手な子にも「小さな成功体験」が積みやすい構造。

個別コーチング(目標設定・振り返り)

子ども一人ひとりが

  • 今の自分をどう感じているか
  • どんなことを頑張りたいか

をコーチと一緒に話し合います。

「目標を自分で決める→挑戦する→振り返る」という流れを習慣化することで、自信の源になる“自己決定感”が育つのがポイント。

ポジティブな声かけ・リフレクション・転移(transfer)指導

研究で特に大切にされていたのがここです。

コーチは意識的に次のような関わりをします:

  • 子どもの努力・姿勢を具体的に褒める
  • 楽しかったこと、難しかったことを一緒に振り返る(リフレクション)
  • 「この経験を学校でも使えるかな?」と生活場面に結びつける(転移・transfer)

つまり、スポーツでの学びをそのまま“生きる力”に変えていく関わりが、常に組み込まれています。

測定指標

自己肯定感

測定方法:Rosenberg Self-Esteem Scale(Rosenberg, 1979)
“自分のことをどう感じているか”を10項目で測る有名なテスト。

例:

  • 「私は自分に満足している」
  • 「私は時々、自分はダメだと思う」

子どもが自分をどう評価しているかが分かります。

自己効力感

測定方法:Sense of Mastery Scale(Prince-Embury, 2008)
“やればできると思えるかどうか”を測る指標。

例:

  • 「困難なことも努力すれば乗り越えられる」
  • 「問題が起きても解決できると思う」

行動の自信=チャレンジする力を評価します。

帰属意識

測定方法:PISA Sense of Belonging Scale(OECD, 2012)
“自分はこの場にいていいと感じられるか”を問う尺度。

例:

  • 「自分は仲間の一員だと感じる」
  • 「この場所にいると安心する」

チームや学校など、環境に「居場所がある」と思えているかを測定します。


主な結果

自己肯定感は有意に上昇(p < .041)

子どもたちはプログラム参加後、「自分のことを前より好きになった」「自分もできる」と思えるようになった
という結果が出ています。

理由としては:

  • スポーツでの成功体験
  • 学習サポートでの“できた!”
  • コーチからのポジティブな声かけ
  • 仲間とのいい関係

などが積み重なった可能性が高いと考えられます(Martín-Albo et al., 2007)。

② 帰属意識は介入環境のほうが学校より高かった(p = .001)

参加した子どもたちは、「ここにいると安心する」「仲間とつながっている」と強く感じていたことがわかりました。

学校よりも高いという点が重要で、
“このプログラムは子どもにとって特別な安全基地になっていた”
という意味があります。

③ 自己効力感は非有意(p = .051)

自信(やればできる感覚)は大きく伸びませんでした。

ここから考えられるのは:

  • 成功体験の量がまだ足りなかった
  • 目標が高く、達成感が得にくかった
  • 小さく積み重ねる仕組みが不足していた

などの可能性です。

次回改善のヒントになる結果ともいえます。

実践者にとっての学び:レジリエンスを育てる3つの視点

研究結果と先行研究を踏まえると、SBPYDの効果を高めるために以下の3つが重要です。

① 自己肯定感を育てる「成功体験」と「ポジティブフィードバック」

スポーツの中での小さな成功、努力のプロセスを認める声かけは、自己肯定感の向上に直結します(Trzesniewski et al., 2003)。

例:

  • 「いまの声かけ、とても良かったよ」
  • 「昨日よりも粘り強さが出ているね」

② 自己効力感は「できた実感を構造的に積む」必要がある

Bandura(1997)は、自己効力感の最も強い源は“mastery experience(達成体験)”だと述べています。

  • 課題を細分化する
  • 自分で選ぶ機会を与える
  • 成功の理由を言語化させる

この積み上げが不足すると、介入のように変化が小さくなる可能性があります。

③ 帰属意識は「安全・承認・つながり」の環境づくりがカギ

Sense of belonging は幸福度・精神的健康・ストレス耐性を高める強力な保護因子です(Baumeister & Leary, 1995)。

研究では学校以上の“安心できる場”が形成されていました。

  • 仲間同士の応援文化
  • コーチが子どもを「受け入れる姿勢」
  • 失敗しても安心できる空気

これらが継続的な参加と成長につながります。

結論:スポーツは「レジリエンスの学校」になれる

今回のSBPYD研究(Godor, 2025)は、小学生のレジリエンス向上にスポーツが大きな役割を果たすことを示しました。

特に、

  • 自己肯定感
  • 帰属意識

はスポーツ環境で大きく伸ばすことができると実証されています。

一方で、

  • 自己効力感の向上には、より意図的な達成体験設計が必要

であることも明らかになりました。

保護者・コーチは、
「認める・つなぐ・達成させる」

この3つを意識することで、日々のスポーツ活動を“レジリエンスを育てる場”へと変えることができます。

参考文献

Godor, B.P. (2025). Cultivating Resilience in Youth: Assessing the Psychological Benefits of Sport-Based Development Programs. Journal of Sport for Development.

Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. Freeman.

Baumeister, R.F., & Leary, M.R. (1995). The need to belong. Psychological Bulletin, 117(3).

Martín-Albo, J. et al. (2007). The Rosenberg Self-Esteem Scale: Validation study. Spanish Journal of Psychology.

OECD (2012). PISA Data Analysis Manual.

Prince-Embury, S. & Saklofske, D.H. (2013). Resilience in Children, Adolescents, and Adults. Springer.

Rak, C.F., & Patterson, L.E. (1996). Promoting Resilience in At-Risk Children. Journal of Counseling & Development.

Trzesniewski, K.H. et al. (2003). The role of self-esteem in early adolescence. Journal of Youth and Adolescence.

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この記事を書いた人

世界で活動するジュニアアスリートを子どもに持つ父親。

広告・PR会社に勤務。国家資格「キャリアコンサルタント」を有し、スポーツキャリアに関する取材を展開。

4万部の情報誌『エンタメニュース』で「キャリア教育を受けていない大人たちへ」を連載中。「キャリアタイムズ」の編集長を務める。

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