本記事は、国際的な行動栄養学・身体活動学の専門誌「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に掲載された最新の系統的レビュー(Bengtsson et al., 2025)を基に、ジュニア期のスポーツ参加が心身の健康にどんな長期的影響をもたらすのかをわかりやすく解説します。
子ども時代の運動経験が、大人になったときの“幸せ・健康・生き方”にまでつながる理由を、保護者・指導者の視点で深掘りします。
ジュニア期のスポーツは“大人の健康”をつくるスタートライン
Bengtsson らの研究は、最長54年間追跡した46本の縦断研究をまとめたものです。その数は過去最大規模で、参加者は 3歳〜19歳 の子ども・若者。追跡時には 65歳 まで調べられたケースもあります。
結論として、スポーツに親しんだ子どもほど、将来にわたって以下の傾向を示しました。
- 身体活動量が高い
- 健康・ウェルビーイングが高い
- メンタル不調が少ない
- 健康的な体組成を保ちやすい
つまり、スポーツは「今の健康」だけでなく、「未来の健康」もつくる“投資”だと言えます。
身体面:運動習慣は大人になっても続く
研究を通して共通していたのは、スポーツ経験者は 成人後も身体活動量が高い ということです。
「スポーツ経験 → 運動が“当たり前の習慣”になる」
- 青年期のチームスポーツ経験は、30代の身体活動量にも影響
- 子ども時代のスポーツ参加は、運動“しない大人”になるリスクを下げる
10年以上の長期でも効果が見られた ことは非常に重要です。
運動習慣は健康寿命を左右するため、ジュニア期にスポーツをしていたかどうかは、のちの人生の“活動量の土台”になります。
心の健康:スポーツは「不安・ストレスへの抵抗力」を育てる
メンタル面の効果は特に注目すべきポイントです。
スポーツ経験者は 不安・抑うつのリスクが低い
研究では、不安・うつ・ストレスなど「メンタル不調」が少ない傾向が確認されました。
なぜメンタルが強く育つのか?
Bengtsson らは以下の仕組みを指摘しています。
- 競技での緊張や負荷に慣れる → 不安症状の“耐性”が身につく
- 成功体験や自己効力感 → 自尊心が高まる
- 仲間との関わり → 社会的なつながりが精神的な支えとなる
特に、チームスポーツはメンタル面での恩恵が大きい ことが他研究でも示されています。
「仲間がいる」「うまくいかなくても支えがある」
この環境が、思春期の心を守る“最強の予防要因”になるのです。
体組成:運動量より“環境”がつくる「からだの未来」
スポーツには体脂肪を減らし、筋量を維持する効果がありました。
- 体脂肪が少ない
- 筋肉量が高い
ただし興味深いのは、BMI(身長体重比)では明確な効果が見られなかったという点です。
これは、
- BMIは筋肉と脂肪を区別できない
- スポーツによって筋量が増え、体重が増えることもある
ためです。
体重の数値より、「どんな活動をどんな環境で続けてきたか」が将来の体を形づくると言えます。
スポーツの「長期的な効果」を最大化するための具体的アクション
Bengtsson ら(2025)の研究は、スポーツの効果は“続けられる環境”によって大きく左右される と述べています。
つまり、保護者・コーチの関わり方次第で、
- 子どもの運動習慣
- 心の強さ
- 社会性
- 健康的な体
- スポーツを好きでいられる期間
は大きく変わります。
ここでは、研究で示された内容とスポーツ心理学の知見をもとに「明日からできる具体策」を紹介します。
① 子どもが“やってみたい”と思える環境をつくる
研究では、スポーツを続けられる環境の中心に 「自律性のサポート」 があると強調されます。
(自分で選び、決めていると感じられる環境)
保護者ができること
- 子どもの「やりたい」「試したい」を尊重する
- 種目の選択で“親の希望”を押しつけない
- 成績より、努力プロセス を褒める
- 失敗しても「次どうする?」と前向きな会話をする
コーチができること
- 子ども自身に「練習の小さな目標」を決めさせる
- 指示一方ではなく「選択肢」を与える
- ミスを責めず、学びの機会として扱う
自分で選んだ感覚はモチベーションと継続の源泉であり、それが将来の運動習慣にもつながると報告されています。
② 仲間とのつながりを育てる:最強のメンタルサポート
本研究でも、メンタル不調の少なさはスポーツ参加と強く関連しており、特に チームでの人間関係 が大きな保護要因となることが示されています。
保護者ができること
- 勝敗より「チームで協力できた場面」を話題にする
- 他の子を悪く言わない
- チームメイトの成功を一緒に喜ぶ文化をつくる
コーチができること
- 仲間を褒める機会を意図的につくる
- 練習の中に「協力・声かけ」を促すルールを組み込む
- 個々の違いを尊重し、排除やいじめを早期に察知して防ぐ
研究では、“仲間の存在”は不安・抑うつを和らげ、人生の保護因子になると繰り返し報告されています。
③ コーチングは「できた!」を積み重ねるスタイルに
自尊心は将来のウェルビーイングにもつながる重要な要素ですが、スポーツは“成功体験”の宝庫です。
Bengtsson らのレビューでも、スポーツによる自尊心の向上 が複数研究で確認されています。
コーチができること
- 技術の指導より先に「良かった点」をフィードバック
- 小さな上達でも必ず言語化して伝える
- 同じ失敗であっても「次のチャレンジ」を促す
- 練習の成功率が低すぎる難易度にしない
保護者ができること
- 「上手だね」より「頑張ったね」「工夫したね」を中心に
- 試合後に「楽しかった?」の質問を優先
- 結果を聞く前に「今日はどうだった?」と主観を尊重
「認められている」「できた」という感覚が、
スポーツを続ける力とメンタルの安定をつくる、と報告されています。
④ 過度な“競争”より、長く続けられる“楽しさ”を重視
レビューでは、スポーツの効果は 「継続して取り組めたか」 によって強く左右されるとされています。
保護者ができること
- 勝敗より「楽しく続ける」ことを重視する
- 高すぎる目標設定を避ける
- コーチ・子ども・自分の価値観を定期的にすり合わせる
コーチができること
- 楽しさを奪わない練習設計(ゲーム性・選択肢)
- 競争は「本人比」で扱う
- 早期の勝利至上主義を避ける
特に思春期は、「プレッシャー → ストレス → ドロップアウト(離脱)」の流れが起きやすいため、「楽しさ」は戦略的に守る必要があります。
⑤ 子どもの「やめたいサイン」に敏感になる
本レビューは、継続したスポーツ経験が身体・心・社会性すべてにプラスだと示していますが、“続けさせればいい”わけではありません。
よくある“赤信号”
- 練習に行く前に沈んだ表情
- ミスを極端に恐れる
- コーチや仲間とのトラブルが増える
- 休み明けに強い拒否感
- 成績のことで家族がギクシャクしている
保護者ができること
- 率直な気持ちを聞く時間をつくる
- 一時的な休養を提案しても良い
- 他の競技や運動スタイルへの転換も肯定的に
コーチができること
- 競技外でのストレス要因に配慮する
- 個別に短い面談の機会を設ける
- 環境調整(ポジション変更・役割の見直し)
「やめたい」は悪ではなく、成長や多様な経験への分岐点。
無理に続けさせるより、“運動嫌いにさせない”ことの方が、長い人生では重要です。
⑥ 家庭・チーム・地域が協力して“続けやすい環境”を
研究では、スポーツの恩恵は社会的支援の質に依存すると述べられています。
取り組むべき3つの支援
- 家庭の理解(送迎・時間管理・共感)
- チームの文化づくり(安全・公平・包摂性)
- 地域の支援(参加費・場所・機会の確保)
特に日本では、
- 費用
- 送迎
- 競技の選択肢の少なさ
が参加を阻む要因になりがちです。
スポーツを“続けやすい”環境を社会全体でつくることが、
将来の健康格差も縮めると考えられます(推測を含む)。
保護者・コーチの関わりで、スポーツの価値は何倍にも膨らむ
研究で示されたように、スポーツは
- 運動習慣をつくり
- メンタルを強くし
- 健康的な体を育て
- 人生のウェルビーイングを高めます
しかしこの効果は、
「子どもが続けられる環境」
「自己肯定感を育む関わり」
「仲間との良い関係」
が揃ったときに最大化されます。
保護者やコーチの“日々の小さな関わり”こそが、
子どもの未来の健康をつくる最も大きな力です。
スポーツは「一生ものの健康」をつくる
今回の大規模レビューで明らかになったのは、
スポーツは子どもの“今”だけでなく“未来”まで守る ということです。
スポーツがもたらす長期効果
- 「運動が習慣になる」
- 「メンタルが強くなる」
- 「健康的な体を維持しやすい」
- 「幸福感が高い」
そして何より、
“続けられる環境”があるかどうかが成功の鍵
という点です。
保護者・指導者・地域・学校が協力し、
子どもが「また行きたい」と思えるスポーツ環境をつくることこそ、
最大の健康投資となります。
参考文献
Bengtsson, D., Svensson, J., Wiman, V., Stenling, A., Lundkvist, E., & Ivarsson, A. (2025). Health-related outcomes of youth sport participation: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity, 22:89.

