2025年11月、早稲田大学は中学生サッカー選手を対象に、MRIと簡単な体幹機能テストを組み合わせることで、腰椎分離症に特有の“左右差”が明確に現れることを発表しました。
本記事では、この研究成果(BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation 掲載)と実際のMRIデータ をもとに、ジュニア期の選手に起こりやすい腰椎分離症の特徴を、専門知識がなくても理解できるように詳しく解説します。
腰椎分離症ってどんなケガ?成長期に多い“疲労骨折”
腰椎分離症は、腰の後ろ側(椎弓)に起きる疲労骨折で、中学生〜高校生のスポーツ選手に多い障害です。
サッカーのキック動作や反り返り、ひねりを繰り返すことで起こりやすく、発症すると数ヶ月の運動制限が必要になります(Leone 2011)。
今回の研究では、同じクラブに所属する12〜14歳の男子サッカー選手107名をMRIで評価し、片側だけに分離症がある19名に注目しました。
「大腰筋が小さい」「脚上げで骨盤が沈む」が分離症の特徴だった
研究チームは、MRIで体幹の深層筋を測定し、さらに現場で使える簡単なスクリーニングテストを行いました。その結果、次の2つが明らかになりました。
①分離症がある側の“大腰筋”が約12%小さい
大腰筋は、腰椎と股関節をつなぐ深層筋で、体幹の安定性に重要な筋肉です。
MRI(L4/5レベルの断面)では、分離症のある側で大腰筋の断面積が小さく、左右差がはっきりしていました。
- 対照群と比べて 約12%小さい
- 多裂筋・脊柱起立筋には大きな差なし
→ 体幹深部のアンバランスが、腰への負担や動きの癖と関係している可能性。
②ASLR(脚上げテスト)で“骨盤が沈む”現象が多い
簡単にできる「仰向けで片脚を上げるテスト(ASLR)」でも特徴が出ました。
- ASLRで骨盤が沈んだ16名のうち、13名(81%)が片側分離症あり
- 特に「脚を上げた側の骨盤が下がる」パターンが頻出
この“骨盤の沈み”は、
体幹が脚の動きに耐えきれていない=骨盤の安定性が弱いサイン と考えられます。
MRIの専門的な評価と、現場でできるASLRを組み合わせることで、
「左右差」という見逃されがちな情報を早期に発見できる可能性が示されました。
これが現場でどう役立つ?早期発見・個別トレーニングに直結
今回の研究で明らかになったことは、指導者やトレーナーにとって次のようなメリットがあります。
● 早期発見の手がかりになる
MRIは全員に行えませんが、ASLRでの骨盤コントロールの乱れは簡単に確認できます。
「いつも右だけ骨盤が不安定」「片脚上げで沈む」などの所見がある場合、分離症の可能性を早めに疑うことができるようになります。
● 個別化トレーニングの指針に
- 大腰筋を含む体幹深層の安定化
- 骨盤コントロールの改善
- 左右差の補正
といった、よりターゲットを絞ったリハビリ・予防トレーニングにつながります。
今後の課題:原因なのか結果なのかはまだ不明
研究は横断的なため、
- 大腰筋が小さい → 分離症を引き起こす
- 分離症が起きた → 大腰筋が小さくなる
どちらが原因かはまだ分かりません(推測の域)。
また、MRIは安静時の評価なので、実際の動きの中での腰の挙動は今後の検討事項です。
深層筋の左右差と骨盤の安定性が、分離症の“サイン”になる
今回の早稲田大学の研究は、
- 「大腰筋の左右差」
- 「ASLRでの骨盤の沈み」
という、現場でも確認しやすい特徴を示しました。
成長期はケガのリスクが高い一方、適切に対応すれば将来の障害を大きく減らすことができます。
日々の指導や観察の中で、「左右差」という視点を持つことが、予防につながります。
参考文献
Tsutsui T., Sakamaki W., Torii S. (2025). Trunk muscle morphology and lumbopelvic stability in adolescent soccer players with unilateral lumbar spondylolysis: a cross-sectional study. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. https://doi.org/10.1186/s13102-025-01387-w
Leone A. et al. (2011). Lumbar spondylolysis: a review. Skeletal Radiology.
その他、本研究論文内に引用された文献(Aoyagi 2024, Park 2013, Liebenson 2009 など)

